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平成19年度 環境対応革開発実用化事業の概要

平成14年度から継続している「環境対応革開発実用化事業」の概要として、報告書に記載されている内容の概要です。詳しい内容については平成19年度環境対応革開発実用化事業報告書を参照してください。
 
総 括
 わが国の皮革産業は長年にわたり厳しい状況におかれている。中国や東南アジア等からの輸入攻勢、FTA、EPA等の締結も増えている。加えて最近の原油高は薬品代、光熱水費等の値上げにつながり、生産コストの上昇にも影響を及ぼしている。その上、生産体制は少量多品種生産を余儀なくされ、経営を圧迫している。
 このような状況下で、皮革産業の不況脱却には様々な課題を克服していかなければならず、そのために何をするべきかを考える必要がある。輸入製品が急増している中で、製品競争力を高めることが必要であり、革の品質、機能、性能、価格、納期等の競争力も必要である。
 最近の新聞、テレビ等の報道やコマーシャルを見ていますと、やたらに「エコ」という言葉が飛び交っている。自動車産業でもエコカーでエコドライブ、新幹線に乗ればエコ出張、エコライフやエコスタイルというように、あらゆる分野で「環境にやさしい、人に優しい」製品開発が望まれている時代である。
 本協会は、このような時代が到来することを予測し、平成14年から「環境対応革開発実用化事業」に取り組み、皮革産業の環境対応に対して様々な角度から試験、調査、研究等を行ってきた。その中で平成18年度に「エコレザー」の基準として「日本版化学物質検査基準」(Japan Schadstoff Gepruft)(以下JSG基準という)を提案した。このJSG基準を適正に運用するシステムについては、JSG基準諮問委員会において十分討議したが、運用する段階までには至っていない。
 しかしながら、幸いにも(財)環境協会が19年10月に「革製かばん類」について「エコマーク」の認定制度を設定し、その革素材はJSG基準に適合することが必須条件として採択した。その結果、JSG基準に適合した革素材を用いた「エコマーク認定商品」(ランドセル)が市場に出回り消費者から好評を得ている状況となった。
 今後、消費者も環境意識が高まり「環境にやさしい」製品を選択する時代となるであろう。その時には、このJSG基準がクローズアップされることと思っている。
 今年度は、JSG基準の適正な運用システム等の検討、市販されている市場革のJSG基準適合状況と課題、染色摩擦堅ろう度向上に関する検討、革の特性について検討すると共に、エコレザー製造の基本的な設計と実用化試験を行い、その結果を次にまとめた。
 
第1章 市場流通革の現状調査
 今年度は、かばん、ハンドバッグ用を主体とした国産革を18点、輸入革を10点収集し、一般的な化学組成、機械的、物理的特性を測定するとともにJSG基準の項目について測定した。
 その結果、化学組成や機械的、物理的特性は、その革の使用用途により大きな差が見られるが、特に異常値は認められなかった。
 今年度のJSG基準に対する分析結果から、不適合要因としてホルムアルデヒド、鉛、総クロム、コバルト、発がん性芳香族アミン、染色摩擦堅ろう度があげられ、特に染色摩擦堅ろう度に関しては国産革の方が勝っていた。総合的に輸入革よりも国産革の方がJSG基準適合率は高い傾向であるが、両者の差異を決定づけるものではない。平成14年度から19年度の調査結果でも不適合要因は19年度とほとんど同じである。
 なお、平成14年度から19年度の調査によるJSG基準適合率は、国産革でエキストラ用が37.8%、皮膚接触型用が52.9%であった。一方、輸入革はそれぞれ29.0%と35.0%であり、国産革の方が輸入革の適合率を上回っている。
 国産革について鞣しの方法による不適合要因の出現率を検証した結果、鞣し方法によって不適合要因の項目は大きく異なってくる。なお、鞣し方法による適合率を総合的に見ると、非クロム鞣し革、省クロム鞣し革、クロム鞣し革の順に適合率が高かった。
 
第2章 分析方法の確立―染色摩擦堅ろう度判定における試料の濃色区分
 着色革を用いた官能評価試験で得た①試料の濃中淡3区分評価と②そこから統合された濃淡2区分評価の2通りの分類に基づき「濃淡」境界値の設定を試みた。その結果、6.15~6.43という複数の境界値(代表値)を得た。
 これらの濃淡境界値は、一般的な色の濃さ区分といえる[濃中淡]色概念の上に成り立つものであることについては十分認識する必要がある。別途に色の濃さの特定区分、例えば「淡色」、にだけ着目した取り扱いを行うとするならば、また異なった色濃度領域が設定される可能性が残されている。
 また、上述の境界代表値導出においては単純な色濃度指数の平均値を用いたが、本来ならば試料個々に与えられた評価の偏り、例えば特定の試料について濃色65%、淡色35%という評価が得られた場合、その比率を境界代表値算出に加味することでさらに境界値としての根拠が強化されるものと期待される
 こうした全体的判断とは別に、試料の色彩属性の特徴が色の濃さの判断に強く影響することについても改めて確認された。特に、一般的な色認識において典型的と考えられている「黄」や「赤」など比較的高明度領域で高彩度を発現する色域については、これまでに実施されてきた寺主らの検討などでも指摘されている通り色濃度としての判断が2極化し易い。また、一般には「灰色」として理解されている中明度の無彩色についても、色の濃さとしてみるとき判断が分散し易い。こうした色についての濃淡評価については何らかの判断指標の整備が求められる。
 
第3章 皮革の特性―冬季の環境下における衣料用革の熱・水分移動特性
 皮革の機能性を明らかにするために、厚さをほぼ一定に揃えたジャケット用の牛革、緬羊革、豚革および繊維素材としてポリエステル(スエード調人工皮革)、羊毛(フラノ)、綿(ベルベット)を収集した。これらを冬季の環境下において同一条件で試験を行い熱・水分移動特性の評価を行なった
(1)  皮革の吸放湿度は繊維素材に比べて優れ、中でも豚革(スエード)の吸湿度は最も高かった。ポリエステル(スエード調人工皮革)は疎水性繊維であるためほとんど吸湿しなかった。一方、吸水度は繊維の特性よりも構造により左右されるため皮革よりも繊維素材の方が優れていた。
(2)  皮革の接触冷温感は繊維素材よりも高く、着用直後に冷たさを感じることが明らかとなった。また保温性は素材や測定環境によりばらつきがあるものの、皮革よりも繊維素材の方がやや高いものも認められた。熱伝導率は繊維素材による差は認められなかったが、スエードは銀付革よりも熱を伝えやすかった。
(3)  模擬発汗後の皮革のシミュレーション湿度・湿度は、繊維素材よりも高かった。シミュレーション湿度は時間の経過に伴って低下し、模擬発汗40分後の絶対湿度は発汗直後に比べて3~4 g/m3の低下がみられた。一方、繊維素材は時間が経過してもほぼ一定の状態を保っていた。これらから皮革は繊維素材よりも放湿能力が高いことが明らかとなった。
(4)  標準状態における皮革の熱流量は繊維素材に比べて高かった。しかし、模擬発汗後の熱流量は繊維素材より低下し、温度は上昇する傾向が認められた。
(5)  模擬発汗後、ポリエステルの人工皮革を除き、湿潤熱が速やかに観察された。湿潤熱の持続時間が最も長かったのは豚革(スエード)であった。
 
第4章 エコラベル革製造のための基本処方の確立とエコレザー製品の試作
クロム鞣しを主体とした鞣製試験
   ウェットブルーを供試革とし、ソフト袋物用およびかばん用革を目標とし、JSG基準値適合を目指して4処方を組み立てた。特に、ホルムアルデヒド、重金属中でも鉛、総クロム、六価クロム、発がん性芳香族アミンを含むアゾ染料と染色摩擦堅ろう度に関しては不適合率が比較的高いので、これらの項目に対しては再鞣剤、染料をよく吟味しJSG基準値に適合させるために、再鞣や染色には十分留意して調製した。
 その結果、再鞣剤、染料の選択によってホルムアルデヒド、染料や染色摩擦堅ろう度の課題を解決することが可能であった。さらに、各工程間の水洗を少し丁寧に行うことによって、溶出総クロムの問題もなくJSG基準適合革を生産することが可能であり、JSG基準に適合させることは、さほど困難な課題ではないと思われる。しかし、製品革の経時変化によるJSG基準への影響について把握しておく必要がある。また、いかに商品価値を向上させるかという要因と組み合わせた鞣し試験を行う必要があろう。
鞣製試験革の加工特性
   試作革の加工特性を検討するため、裁断、革漉き、縫製、縁返し、箔押しの難易度が評価できる簡単な名詞入れを試作した。その結果、植物タンニン鞣し系は素材がやや硬く、裁断、漉き、縫製の難易度が最も低い。しかしながら、その他の供試革については、特に支障となる加工上の課題はなかった。
ゴルフ手袋用革の試作
   エチオピアシープを原料としてゴルフ手袋革を製造した。グルタルアルデヒドと合成タンニンにより鞣しを行った。厚さは従来革より厚くなったが、伸びが少ないという特徴があった。また、エコレザー基準に関する試験を行ったところ、すべての項目で基準値を上回った。それに加えて、試料革では総クロムの溶出量が低いことがわかった。風合いについてもほぼ満足する結果が得られた。これらの結果から、エコレザー基準を満たした非クロムのゴルフ手袋用革として十分に実用化できると考えられる。
リン酸化染料の実用化性
   安価な高堅ろう性染料の開発を目的に、リン酸基を有する染料中間体の合成方法を種々検討した結果、97%の高純度を有する安価な中間体の合成に成功した。この中間体を使用して染料を試作し、試作したリン酸化染料で染色した革の染色堅ろう度を測定した。その結果、堅ろう性の優れた染料が認められたが、一方で、合成法の改良や精製法の検討が必要である堅ろう性の低いリン酸化染料も存在した。
 
第5章 暫定エコレザー基準の認知公告と運用システムの確立
 わが国独自の革用化学物質検査済み(JSG)基準値ラベル、すなわち日本版エコレザー認証基準ラベルを暫定的に運用するために認証基準書案や認証申請書案を作成し、ラベル図案をより消費者に理解されるよう再検討し、同時に認知公告するために諮問委員会を開設、さらにアンケートを実施し、広く意見をまとめた。
 日本版エコレザー認証基準ラベルの早期運用が求められていることが明らかとなり、実際に運用するための認証業務としての証明方法、申請方法、審査方法などの記述内容、書式などをまとめた。諮問委員会では、基準値や革定義に対する適用範囲の希望、情報公開の必要性、認証費用や認証・運用機関創設などに対して意見交換や意見具申があり、社会に公知できる体制が整えられた。JSGラベル認証・審査機関の創設については既設機関を利用し、早期実現に向け企業団体や利害関係者とも連携を図り、具体案を検討する段階に入った。

 

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