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皮革と鞣し

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鞣し方法による環境への影響

世界中で使われている主要な鞣し剤としてクロム、植物タンニン、アルデヒドについて、ライフサイクル分析(LCA)を行った結果、これらの鞣し剤による差はない、ことが明らかにされています。

LCAではISO 14040を使用して、再生不能資源の枯渇、富栄養化、光化学オキシダント、酸性化、温室効果、廃棄物、再生不能エネルギー、水使用量の観点から環境への影響について検討されました。

その結果、3種類の鞣しについて、クロム及びアルデヒドは類似しているが、植物タンニンは異なることが分かりました。しかし、これらの3種類の鞣剤による環境への影響には差がないことが明らかになりました。

したがって、どのような鞣し剤を使用するかではなく、適切な製造工程及び環境管理が行われた製革工場で製造を行うことが重要です。

 

クロムについて

クロムについて、様々な情報が流れています。革にクロムを使っている、しかも重金属というと、有害と思われるかもしれません。
しかし、重金属とは比重が大きい金属のことを総称するもので、健康に有害なものもありますが、生体にとって必須元素もあります。
重金属の代表的なものとして、白金、金、水銀、銀、鉛、銅、鉄、クロムなどがあります。

クロム鞣しは、100年以上前から使われるようになった比較的新しい鞣し方法です。現在は、世界中で製造される革の約80%がクロム鞣しと推定されています。クロム鞣しには3価クロムが使用されています。安価で効果的な鞣剤であることが知られています。様々な用途に適用できる鞣し方法で、柔軟性、弾力性、耐熱性、染色性などに優れています。

●金属クロム
金属のクロムは、銀白色の硬い固体で、常温では極めて安定な物質です。
空気や水中では容易に酸化されないので、メッキや合金の材料として使用されています。

●3価クロム
3価クロムは、感作性及び毒性はなく、CMR(発がん性、変異原性、生殖毒性)にも分類されません。
3価クロムは人体の必須元素でもあります。3価クロムはインスリンと結びついて、血糖値を下げる働きをします。また、脂質の代謝を促す効果もあります。

●6価クロム
酸化のクロムが酸化されて生成します。この塩は特有の黄色を呈し、感作性があり、CMR(発がん性、変異原性、生殖毒性)に分類されます。
革の製造には、6価クロムを使用することはありません。ただ、特定の条件下で、酸化還元反応によって6価クロムに変換する可能性はあります。
一般には、発生した微量の6価クロムは、強力な酸化力を持つことから、環境中に存在する多くの有機物と直ちに酸化的に反応し、安全な形態の3価クロムに還元されます。
また、現在では適切な製造工程によって、革中の3価クロムが6価クロムに変換することを防ぐことはできます。

●6価クロムの規制
EUでは、REACH規則の附属書XVIIに6価クロム化合物が登録され、2015年5月1日から以下のような規制が開始しました。
・皮膚と接触するようになる革製品は、革の乾燥質量の3mg/kg(0.0003%)以
上の6価クロムを含有したものを上市してはならない。
・皮膚と接触するようになる革部品を含む製品は、革部品の乾燥重量の3mg/kg
(0.0003%)以上の6価クロムを含有したものを上市してはならない。
・これらの中で、2015年3月1日以前に連合内で最終消費者に中古で上市され
たものは除外する。

●6価クロムの毒性
急性毒性(経口) ラットのLD50価(物質の急性毒性の指標、投与した動物の半数が死亡する量)は17 mg/kg(雌)、26 mg/kg(雄)(ATSDR、2012)などがあります。
17 mg/kgを人に当てはめ、人の体重50kgとすると、0.85 gを摂取することとなります。溶出6価クロム量が3 mg/kg(検出限界)の革と仮定すると、革を283 kg食べることになります。
1足の靴で使用される革の重量を200 gとすると、靴を1,415足食べることになります。NOAEL(無毒性量)の2.5 mg/kgを考える、人の体重を50kgとすると、0.125 gとなります。溶出6価クロム量が3 mg/kgの革と仮定すると、41.6 kgの革を食べることになり、靴208足に相当します。これらのことから、急性毒性には何も問題がないことがわかります。

●6価クロムの発がん性について
IARC(国際がん研究機関)の分類では、6価クロムはグループ1(人に対する発がん性が認められる)に分類されています。肺がん及び副鼻腔がん以外のがんについて、たとえば経口及び経皮からの発がん性は認められていません。粉塵、蒸気、煙に含有する6価クロムを吸入することによって生じるものです。
革に含有、または革から溶出する6価クロムについては、吸入の可能性がないため、発がん性とは無関係です。

●感作性について
6価クロムは強力なアレルゲンとして知られています。日本産業衛生学会では、感作クラス1に分類しています。一般集団におけるクロム過敏症の罹患率は、欧州における調査で0.5~1.7%、米国では、1.6%と推定していますが、別の調査では米国で0.08%と推定されています。

●革中の6価クロム
反応速度が極めて遅いため、標準的な条件では3価クロムが6価クロムに返還することはほとんどありません。革の場合には、不飽和油の酸化によって生成するヒドロキシラジカルによって、3価クロムが酸化されることが原因であることが報告されています。
6価クロムは、pHが低くなるほど不安定で酸化力が大きいことが知られています。ほとんどの革は、pH3~4の酸性状態にあるため、革中の6価クロムは不安定な状態です。水分(吸着水)の存在で3価クロムへの還元が促進され、一般的には6価クロムは検出されなくなります。
たとえ6価クロムが溶出しても、汗や微生物の影響で皮膚に接触し浸透する前に3価クロムへの還元が進むものと考えられます。もし、アレルギーが疑われる場合は、靴の場合は、靴下を着用するなどして皮膚と革との直接的な接触を避けることによって防ぐことができます。

●革中の6価クロムの測定方法
現在の6価クロムの測定方法に問題がある可能性が指摘されています。革から6価クロムを抽出するのにpH8.0のリン酸緩衝液を使用していますが、健康な人の皮膚のpHは4.5~6.0の弱酸性です。この酸性領域では6価クロムは不安定であるため、正しい6価クロム量を測定することはできません。
したがって、通常の使用条件とは異なる条件で、抽出を行っていることになります。革中の6価クロムを正確に測定する方法の開発が求められています。

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