1.原料皮の種類
現在、動物皮が革として利用されるのは、主に脊椎動物である。この種の脊椎動物を分類すると下表のとおりである。脊椎動物の中でも哺乳類、爬虫類に属する動物皮がよく利用されているが、鳥類、両性類、魚類に属する動物皮も利用されている。
野生動物の皮も利用されるが、全滅の恐れがある野生動物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)により制限がある。そのため野生動物でもミンク、ダチョウ、ワニなどは飼育されている。
日本は家畜の頭数が少ないので馬、羊、山羊等の皮はほとんど輸入に頼っている。牛皮も年間130万枚程度を輸入している。豚皮は唯一国内で賄っている動物皮である。
皮革のための脊椎動物の分類
綱 | 目 | 科 | 例 |
哺乳類 | 偶蹄目 | イノシシ | ブタ |
ペッカリー | ペッカリー | ||
シカ | シカ | ||
ウシ | ウシ、スイギュウ、ヤギ、ヒツジ、 | ||
奇蹄目 | ウマ | ウマ | |
有袋目 | カンガルー | カンガルー | |
げっし目 | カピバラ | カピバラ(カルピンチョ) | |
有鱗目 | センザンコウ | センザンコウ | |
鳥類 | ダチョウ目 | アフリカダチョウ、 | |
レア目 | アメリカダチョウ | ||
爬虫類 | カメ目 | ウミガメ | ウミガメ |
トカゲ亜目 | オオトカゲ | オオトカゲ | |
テーイッド | デグー | ||
ヘビ亜目 | ボア | アミメニシキヘビ、インドニシキヘビ | |
ウミヘビ | ウミヘビ、エラブウミヘビ | ||
ヘビ | ミズヘビ | ||
ワニ目 | クロコダイル | ニューニギアワニ | |
アリゲーター | ミシシッピーワニ、カイマン |
2.原料皮の化学組成等
革は動物皮の組織構造を巧みに利用しているが、動物皮には以下のような様々な物質を含んでいる。この中で革として利用するのはコラーゲン繊維であり、製革業はコラーゲンの精錬工業ともいえる。
(1)皮を構成する成分
(イ)非タンパク質成分
①水分:新鮮な動物皮は60~70%の水分を含む。
②炭水化物:含有量は少なく、準備作業でほとんど除去される。
③脂質:グリセライド、ワックス、ステロール、リン脂質、遊離脂肪酸など
④無機質:灰分として0.2~2.0%・・NaCl、K、Fe、S、Pなど
(ロ)タンパク質
①水、塩水不溶物で繊維状の硬タンパク質(コラーゲン、ケラチン、エラスチン)
②球状の水可溶性タンパク質(アルブミン、グロブリン)
(2)皮の基本物質
(イ)コラーゲン
原皮中の主要成分で鞣剤と結合して革をつくる。真皮だけでなく骨、歯、腱、血管、腸管、筋肉などあらゆる組織に分布する。全構成タンパク質の1/5~1/3を占める。コラーゲン線維はコラーゲン分子の3本鎖のラセン構造をなし、それが集合して繊維束を形成している。
(ロ)エラスチン
動脈、靭帯、結合組織などに見られ弾性繊維を構成するタンパク質である。
(ハ)ケラチン
毛、表皮、爪、角、蹄を構成する不均一なタンパク質、酵素に対する抵抗性が強い。
(3)動物皮の一般成分組成
動物から剥いたばかりの新鮮な動物皮の一般的な成分組成であるが、動物種、部位、性、飼育年齢、栄養状態、剥皮方法などによって非常に異なる。一般的に加齢によって全タンパク質量が増加する。
動物皮の一般成分組成(例)
動物種 | 水分(%) | 全タンパク質(%) | 全脂肪(%) | 無機質(%) |
子牛(新生直後)
子牛( 180 日令) 成牛( 4 年令、ステア) 豚(ランドレース、 180 日令) ヤギ |
67.9 66.0 55.6 63.2 66.0 |
30.8 31.0 38.2 29.2 23 ~ 29 |
1.0 1.6 6.0 10.5 3 ~ 10 |
1.0 1.4 1.1 0.7
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3.動物皮の組織
皮を構成する繊維は、コラーゲン線維が大部分を占めるが、動物皮は外層または表皮層、真皮層、皮下結合組織からなっている。表皮層は角質層、顆粒層など4層からなっているが、革としては不要な層であり準備工程などで除去される。
真皮層は乳頭層(銀面層)と網状層に分かれる。真皮層の最上層は革でいう銀面層に当たり、この層は網状層より遙かに細かい繊維が緻密に交絡、繊維の多くは水平方向に走行している。
そのため、革の銀面層は網状層に比べ組織が緻密であり、伸びや水分透過性は悪くなる。
エラスチン繊維は乳頭層、血管の周囲、皮下組織中に存在するが、皮下組織中のエラスチン繊維は製造工程中の機械的操作で除去される。乳頭層中のエラスチン繊維も製造工程中の薬品処理でほとんど分解除去される。
毛を構成するケラチンは、毛皮の場合を除き革の製造には不要なものであり、石灰漬け処理で分解除去される。
1) 毛包と毛
体表を覆っている毛は体の保護、保温、感覚のために発達したもので、皮の表面に現れた部分が毛幹、皮の中に埋めもれた部分を毛根と呼ぶ。動物毛の種類は保護毛(刺毛、剛毛)と柔らかくて細かい下毛(綿毛、うぶ毛)が集まって体を覆っている。これらはある発育サイクルをもって発育と換毛を繰り返しており、季節や気温、栄養、健康状態が影響する。
2) 立毛筋、皮脂腺、汗腺、血管
立毛筋は毛包の下方から表皮に向かって斜めに走る平滑筋で、交感神経が興奮すると反射的に立毛筋が収縮して毛を逆立てる作用がある。皮脂腺は毛と表皮に防水効果を持たせて保護するために油状の物質を毛包の上部から分泌する。汗腺は単管状の腺を真皮や皮下組織まで伸ばしてとぐろを巻いた分泌部分に繋がっており、分泌部分が毛細血管で包囲されている。体温が上昇すると、ここから汗を分泌して皮膚表面に送り、気化させ熱の発散を行う。 血管は動脈網と静脈網が基底膜の下、真皮、真皮と皮下組織の間に分布している。
3)乳頭層(真皮の銀面層)
乳頭層には細かい膠原繊維束が分布しており、毛包、皮脂腺、汗腺、立毛筋、神経、毛細血管が陥入し、毛包を取り囲むように弾性繊維が分岐して交絡している。皮革では、表皮が石灰づけで除かれた後の乳頭層の表面を銀面と呼んで、特にこの外観を重要視する。銀面は直径が細かい膠原繊維が表面に平行に走行したのち、また乳頭層の内へ戻っているループの凹凸面でシワや毛穴が残っている。
4)網状層
網状層は膠原繊維がまとまって太い繊維束となり、3次元的にゆるやかなに交絡しており、下層になるほど膠原繊維束の走行方向が平行になる傾向がある。また、真皮の膠原繊維束の走行方向は背中を中心にして頭、両脚、尻尾へ向かっており、この走行方向では伸びにくくて垂直方向が伸びやすい。
5)皮下組織
皮下組織は下の筋膜とをつなぐ結合組織である。真皮に比べると繊維の配列が粗くて走行の方向が皮表面に平行で、細胞間に大量の脂肪が蓄積された脂肪細胞層を接合している。皮革ではこれを肉面と呼んでおり、これは準備作業で脂肪塊や肉片と共にフレッシングマシンで取り除かれる。
6)主要な皮組織の繊維
主要な皮組織の繊維は、皮の大部分が直径1~20μmの細かい膠原繊維であり、これらの繊維が合流したり、太い繊維から分かれたりしながら、立体的に連続して走行している。膠原繊維の周囲にはさらに繊細な細網繊維がある。膠原繊維を構成するコラーゲン細繊維の太さは、コラーゲン分子の種類や部位によって異なる。弾性繊維は走査電子顕微鏡で観察すると、微細な線維(約10nm)が均質構造のエラスチンを主体とする太い線維の表面で走行している。